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  − 渓流魚の親魚放流 (しんぎょほうりゅう) −     


 アマゴ・ヤマメなど渓流魚の発眼卵埋設放流は、すでに手法が確立され、マニュアルが作成されています。しかし、冬季の水温の低い川で手作業で実施しなければならず、手間がかかるという短所がありました。

 当研究所では、その代替策として 「親魚放流 (しんぎょほうりゅう)」 の方法を確立しました。親魚放流とは、産卵期に十分に成熟した親魚を河川に放流し、自発的に産卵させる増殖方法です。発眼卵埋設では人が手作業で卵を埋めるのに対して、親魚放流では魚に卵を埋めさせるというのが両者の大きな相違点です。





産卵行動中のアマゴ親魚 (手前が雄、奥が雌)


川底を掘る雌


 当研究所では、完全に成熟したアマゴの雌親魚と雄親魚を河川に放流し、実際に産卵するかどうかを確認するとともに、産卵場所の特徴や産み込まれた卵の発眼率を調査しました。

 その結果、放流当日から産卵行動が確認されました。また、産卵場所の立地条件は野生魚のものと同様で、放流魚でも正常に産卵することが確認され、発眼率は平均 90.6 % と良好で、ふ化も確認できました。





産卵床の発掘調査


確認された発眼卵


 この親魚放流は、以下のような長所があります。

@ 発眼卵埋設よりも作業量が少なくて済む。
A 成魚放流を行っている漁業協同組合であれば、既存の車両や道具で実施できる。
B 受精時から川で生育するため、卵や仔魚の生育の速度が野生魚に近い。野生魚と同様、好適な水温や餌条件の時期にふ化・浮上させることができる
C 禁漁期 (秋季) に実施するため、放流後の親魚が漁獲されるおそれがない。
D 産卵シーンを間近で観察することができ、地域の観光資源や生物教育の題材として活用することもできる。


 その一方で、以下のような短所があります。

@ 大量放流には活魚トラックが必要となり、コストがかかる。また、川沿いに車道のない場所では、親魚の輸送に手間がかかる。
A 親魚 1 尾の損耗 (密漁・鳥による食害など) でも、増殖効率が著しく低下する。
B 産卵の適地がない川では、放流しても効果が望めない。
C 在来個体群 (種苗放流が これまで一度も行われていない支流に生息する固有の遺伝子を持つ純系の魚の集団) が分布する支流に放流すると、交雑が起こり、その地元にしかしない純系の魚が消失するおそれがある。


 なお、養殖場は、通常は必要量の親魚しか保有していないため、急な注文に応じるのは困難です。親魚放流を行う場合は、十分な時間の余裕を持って (半年くらい前から)、養殖業者に親魚の生産計画や購入の可否を相談してください。

 親魚放流は、発眼卵埋設よりも少ない作業量で実施可能で、発眼卵埋設と同様の効果が期待できます。ただし、長所と短所の両方があり、親魚放流も完璧な方法ではありません。親魚放流は、これらの特徴を理解した上で実施してください。また、在来個体群が分布する支流では、種苗放流 (親魚放流を含む) を実施しないようお願いします。

解説書
「アマゴ・ヤマメの親魚放流の方法」
< PDF >

※ 両面印刷して左とじにすると冊子になります

※ この解説書は、岐阜県河川環境研究所
  (当時)が発行したものです

参考文献

コ原哲也 ・岸 大弼 ・原 徹 ・熊崎 博.2010.河川放流した養殖アマゴ成熟親魚の
  産卵床立地条件と卵の発眼率.日本水産学会誌,76 : 370-374.
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